Kensuke Esato,M.D.
江里 健輔
 
江里 健輔
山口大学名誉教授
山口県立大学学長・理事長
執筆情報 [詳細ページ]
その他

治療効果を半減させる生活の不摂生 NEW
2012年07月31日

                     燦(平成24年7月) 

        治療の効果を半減させる生活の不摂生
              山口県立大学学長・理事長
                       江里 健輔
足の血管が詰まる病気があります。代表的なものが閉塞性動脈硬化症とバージャー病(閉塞性血栓血管炎)です。いずれも、血管の内膜が次第に肥厚し、血管の内腔が狭くなったり、詰まるものです。従って、症状はほとんど同じです。原因は、前者は動脈硬化によるもので、腹部大動脈、腸骨動脈や大腿動脈など大きな下肢動脈が閉塞します。好発年齢は高齢者、それも男性です。女性に発生することは極めて稀です。それに対して、バージャー病は炎症で、中・小動脈に発生し、下肢のみならず、上肢にも発生し、女性にはまず発生しません。両者とも喫煙で病状が悪化しますが、特に、バージャー病はその影響が非常に大きいです。症状は足に十分な血液が流れないために、虚血症状(酸素が足らない症状)、即ち、足が冷たい、蒼白、しびれ、さらには間歇性跛行(100メートルぐらい歩くと、足が痛くなり歩くことが出来なくなる。しかし、数分間、休めばまた歩けるようになる)をきたすようになります。この時期になると、多くの男性がゴルフが出来ない、散歩が出来ないなどを訴えられ、どうかして欲しいと受診されます。このような時にはまだまだ日常生活はそれほど不自由ではありません。しかし、やがて、安静時疼痛(じっとしていても痛い)が生じてくると、痛みのために、寝られず、ベットの上で、痛む足をさすりながら、夜を明かされる場合も少なくありません。生活の質(QOL)が極度に低下します。そのうちに、足の皮膚の色が紫色になり、だんだん、黒くなってきます。この時期の痛みは猛烈で、麻薬を使っても、痛みは取れなくて、足を切ってくれ、切ってくれと懇願されます。治療は症状の程度で異なります。初期の頃は血液が固まらないように、血液をさらさらさせるようにするために、抗血小板薬(血液がかたまらにようにする薬)を飲んで貰います。症状が強くなり、血管が完全に詰まったりしますと、手術が必要となります。手術には狭くなったところ、あるいは、詰まったところまでカテーテルを通し、先端につけた風船を膨らませて血管を広げ、動脈の内壁が再び肥厚しないようにステント(金属製の筒)を置きます。しかし、すべて患者さんにこのような治療が出来るわけではありません。閉塞範囲が長い時、伸屈曲を頻回に行う膝のような箇所にはカテーテル治療成績はあまり良くありませんので、バイパスという手術を行います。これは、閉塞した血管を触ることなく、新しい血液が流れる路を人工血管や患者さんの静脈(代用血管)を用いて行うものです。手術はそれほど難しいものではありませんが、血が流れる管ですので、細心な注意が必要です。期待したような手術が出来なかった場合、肢切断という最悪な状態になりかねませんので、血管外科医の治療を受けるべきです。
問題はカテーテル治療にせよ、バイパス手術にせよ、治療効果は日常生活に影響されるので、術後にどのような生活をしているかであります。過日、カルーセル麻紀さん(69歳)が閉塞性動脈硬化症に悩んで、手術を受けたという記事が掲載されていました(朝日新聞、2012,3,31)。
これによりますと、右足の付け根の詰まった場所をカテーテルで拡げ、ステントを置いたところ、足全体に血液が通い、足の中に熱いシャワーが、ばあーって流れる感じで、症状が劇的になくなったということでした。確かに、この治療で症状はなくなりますが、病気が治ったわけではありません。詰まった血管が拡げてだけのことで、原因である動脈硬化は麻紀さんの体、全体を包んでいるのですから、また、何時、拡げた血管や他の場所の血管が詰まっても不思議ではありません。従って、血液をさらさらにする薬を一生涯飲まなければなりません。担当医師は「いくら薬を飲んでも、手術をしても、生活習慣が不摂生であれば、元の木阿弥ですよ。だから、規則正しい生活をするように。特に、喫煙は駄目ですよ」と注意したそうです。カルセール麻
紀さんは17歳ごろから女性ホルモンを注射されていましたが、7年前よりこのホルモン注射を止め、それ以来、一気に症状が進んだようだと言われています。その上、彼女は強烈な愛煙家です。退院後、4日間は禁煙されたそうですが、最近は1日40本吸っているとのことです。
このような生活では折角行ったカテーテル治療、また、現在飲んでいる薬の効果を半減することになり、高い医療費が無駄になってしまいます。欧米では、禁煙しないようなきちんとした生活習慣が守られていない患者さんには治療を行わないのが原則とされています。これは当然なことです。
タバコの害はどこでも言われているので、十分理解されている筈ですが、なかなか守られていません。タバコの害でもっとも判りやすいのは「スモーカーズフェイス」です。喫煙で生じた活性酸素で細胞がサビつき、皮膚がカサカサになり、シミや吹き出物があらわれる特有な黒ずんだ顔貌になります。皮膚だけが黒ずむならば、それほど問題ではありませんが、皮膚と同様、全身の臓器にも同じような変化が起きているのです。脳、心臓、腎臓、腸管などの血液の流れが悪くなり、そのために、脳梗塞、心筋梗塞などいろいろな障害を来します。
愛煙家は、喫煙すると、なんとなく眠気がとれ、頭がスッキリしたような感覚になります。そのために、一時的な精神のリラックスやストレス解消などを居丈高に唱えますが、そのメリットよりデメリットの方がはるかに高いことを認識しなければなりません。ましてや、医療保険を使って医療を受けたのであれば、7割は国民が負担しているのですから、治療を半減させるような生活をするのであれが、全額自分で負担すべきです。自己管理が出来ないような患者さんにこのような高額医療を施すことは大げさな表現ですが、国費の損失です。患者さんが喫煙を止められないのは、本人の勝手で、第三者がとやかく言う問題ではありませんが、このような患者さんの負債行為を我々が償うことは勘弁して欲しいものです。
読者の方々はどう思われますか?



[ もどる ] [ HOME ]