Kensuke Esato,M.D.
江里 健輔
 
江里 健輔
山口大学名誉教授
山口県立大学学長・理事長
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その他

ガンより怖い「動脈硬化」(?) NEW
2012年08月17日

              日本時事評論(平成24年8月17日)        
    ガンより怖い「動脈硬化」(?)
            山口県立大学学長(理事長)
                    江里 健輔

一般に「ガン」は怖い、こわい病気と思われていますが、これと同じくらい怖い病気があります。「動脈硬化」です。
「動脈硬化」はドイツの病理学者であるロブスタインが“動脈壁が硬く肥厚した状態”に名付けた名称です。もっと正確に言うと動脈壁が細胞の増殖によって肥厚、改築され、弾性を失って硬くなり、その結果、内腔の狭窄あるいは機能の低下を来すものです。「動脈硬化」は血管内腔が狭くなりますので、各臓器への血流量が次第に不足し、じわじわとあらゆる臓器を蝕めてしまいます。従って、気がついた時、元に戻そうとしても戻らない、治療の施しようのない状態になっています。とにかく、動脈硬化にならないように、ならないようにと予防するしか方法はありません。
一般に、動脈硬化の危険因子には高脂血症、高血圧、喫煙、肥満、家族歴、性別、加齢、ストレスなどがあげられています。
高血圧があると冠動脈疾患(不安定狭心症や心筋梗塞など。心臓を栄養する血管、冠動脈が狭くなったり、詰まったりするもの)や脳血管疾患(脳血管が詰まったりする脳梗塞や血管がやぶれる脳出血など)の発症率が正常血圧者に比べて2〜3倍高いという報告もあります。
糖尿病は慢性の高血糖のため、いろいろな症状を来すものです。糖尿病があると高脂血症、高血圧、血液凝固の亢進などが発生し、動脈硬化に繋がっていきます。これにはT型(インスリンの絶対的な不足)とU型(インスリンの分泌低下あるいはインスリン標的臓器におけるインスリン感受性の低下、所謂、インスリン抵抗性のもの)がありますが、問題なのは後者で、糖尿病患者の90〜95%を占めます。平成14年厚生労働省の調査によれば、糖尿病が原因で失明した人は年間3,500人、腎機能不全で人工透析を受けるようになった人は年間12,630人、また、糖尿病が強く疑われる人のうち、心筋梗塞を有する人が15.8%,脳梗塞を有する人7.9%であったとのことです(日本医師会雑誌、2003:130;S4)。
喫煙は悪玉コレステロールであるLDL(Low Density Lipoprotein)を増えさせ、善玉コレステロールHDL(High Density Lipoprotein)を減すために、動脈硬化が生じます。1日10本以上の喫煙者の冠動脈疾患の発症リスクは非喫煙者の2.8倍になることが報告されています。
肥満は先進国でもっとも大きな問題になっています。肥満が腹部内臓に脂肪が蓄積したためによるものである場合、アデイポネクチン分泌が低下し、動脈硬化が促進されます。
性別では女性は動脈硬化になりにくいとされています。何故ならば、女性には抗動脈硬化作用があるエストロゲンが分泌されるからです。
ストレスも動脈硬化を促進します。自律神経には交感神経と副交感神経がありますが、前者は“昼の神経”、後者を“夜の神経”と言われています。即ち、交感神経が優位であると、血管収縮、脈拍数の増加、血圧上昇、すぐに興奮するなど、身体がエネルギッシュな状態になり、あらゆる循環器疾患を来す原因である動脈硬化を招きます。これに対し、副交感神経は“夜の神経”と呼ばれ、夜に眠りにふさわしい状態、即ち、血管が拡張し、脈拍数が減り、血圧が下がり、体を緊張から解きほぐし、休息させるように働きます。従って、競争心、攻撃性の強い性格の人は、交感神経が優位であるために、動脈硬化になりやすいとされています。

では、動脈硬化を進行させない方法があるのでしょうか?
治療としては、降圧剤で血圧を下げるとか、血糖値や脂質を正常値にする薬物療法などがあります。薬物療法は手軽で、しかも、簡単ですので、安易に頼りがちですが、出来れば、薬は、最後の方法にしたいものです。それよりも生活習慣を整え、外界の刺激に対し、体を守ろうとする免疫力を高めるようにすべきです。
有酸素運動は優れた方法の一つです。有酸素運動とは、楽しみながら出来る運動で、酸素を普段よりも多く取り込みながら行うものです。体内の糖質や脂肪をエネルギー源として燃焼することによって、ゆっくりエネルギーを生み出しますので、乳酸を生じることなく、疲れが蓄積せず、長時間続けることができます。代表的なものとして、速歩、ジョギング、水泳、サイクリングなどを額に汗が滲む程度で、1日30〜40分、週に3〜4回以上をすることです。このような有酸素運動で免疫力がついてきます。

免疫力でしばしば話題になるのは僧侶です。僧侶は長生きすると言われていますが、医学が発達していなかった鎌倉時代にも拘わらず、法然80歳、親鸞90歳、恵心尼87歳、蓮如85歳、雪舟87歳とその時代では信じられないような長生きです。1983年から87年の間に、十種類の職業について平均寿命を調べた研究が報告されています。これによると、トップが僧侶で79.5歳、短いのはスポーツや小説家で71.5歳ということでした(中国新聞、2003,4,22)。僧侶は酒も飲まず、早寝早起き、精進料理に見られるように動物性蛋白をあまり摂らず、いまや健康食として注目されている大豆をたっぷり摂り、自然サイクルに沿った生活をしていることで、免疫力が高齢になっても低下しないのではないかと推量されています。
ガンは今や早期診断早期治療でかなり克服されてきました。それに対し、動脈硬化の怖さはあまり認識されていません。免疫力は20歳をピークに加齢とともに減退してきますから、若い時から、動脈硬化の怖さを知り、運動や食事などいろいろ工夫することで、低下する免疫力を維持するよう、規則正しい生活をすることです。動脈硬化を遅延させることで、健康寿命が保たれ、「生き生きとした人生」を楽しむことが出来てきます。
自分の健康は自分で獲得することです。



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