Kensuke Esato,M.D.
江里 健輔
 
江里 健輔
山口大学名誉教授
山口県立大学学長・理事長
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風のとき(宇部日報)

漢字の意味を噛みしめよう NEW
2012年10月25日

宇部日報(2012,10,25)   

        漢字の意味を噛みしめよう

親父が
「おまえ、娘という字の意味を知っているか?」
と突然質問。あまりに咄嗟でしたので、返答に困っていましたところ、
「『娘』とは良い女と書くんじゃ。この頃の娘は娘じゃないよ。親に育て方がどこかで間違っている」
と疑問を投げかけました。
それ以来、漢字がどのような意味を表わしているのか考えるようになりました。漢字をじっくりと見つめる度に一つ一つが特定の意味を的確に表現していると感心させられ、先人の知識に納得するばかりです。夏目漱石は著書「門」で「字というのは不思議だな。いくらやさしい字でも、こりゃ変だ、と思って疑い出すとわからなくなる」と述べています。今の世相はまさに漱石の指摘した如く、漢字がその意味を失ってきています。
20年前ごろ、ある大阪の小児病院の院長が
「急患の乳幼児を診察する前には、必ず、その母親と会い、じっくりと話しをしないと大変な間違いをすることがある」
と話してくれたことがあります。それは病気を疑う前に、「虐待」を疑ってみよという忠告でした。母親が自分の子供に暴力をふるうということは大都会の話で、宇部のような地方では決して起こるものではないと高を括っていましたが、今では場所には関係なく、何時でもどこでも起こるようになりました。
広島県府中町の小学5年、堀内唯真さん(11)が暴行され死亡した事件で、傷害致死容疑で逮捕された母親が「躾」のためにアパートの自室内の複数の場所で暴行を加えたと供述しているとのことです。娘さんの体には殴打されたとみられる打撲痕は頭や上半身などのあり、さらに、素手で何度も殴られたり蹴られてしたとみられる傷が多数あったとのことです。母親の暴行から逃げ惑う唯真さんの姿を想像するだけで、日本中の人達が悲しく哀れな気持ちになった筈です。「親」という漢字も木の上に立って見るとあります。親子の距離が正しく保たれていないと「親」になれないという事でしょう。
「躾」であれば、『身』を『美しく』するのでなければなりませんが、唯真さんの体はアザだらけで、「躾」ではなかったでしょう。
今こそ、先人が作ってくれた素晴らしい漢字の意味を噛みしめ、日本中の親は他人事ではなく、己のこととして総懺悔を、そう言う思いです。



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