Kensuke Esato,M.D.
江里 健輔
 
江里 健輔
山口大学名誉教授
山口県立大学学長・理事長
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その他

同じ先生にずっと診て欲しい NEW
2012年11月30日

      
    同じ先生にずっと診て欲しい
    

昭和四十年代では、進行ガンが多かったので、多くの患者さんはどうような治療を受けられてもガンを克服することは至難でした。即ち、ガンと診断された時が寿命の終わりの時でした。また、心筋梗塞などの発作を起こすと、生命を取り留めることは稀でありました。しかし、最近では早期診断・早期治療で、ガンから生還され、元気に社会復帰をされる人が多くなりました。そのために、その人達がまた新しいガンにかかる、所謂、重複ガン(2個以上の異なる臓器に同時性あるいは異時性に原発ガンが発生したもの)にかかる患者さんが増えました。一方、心筋梗塞に罹った人でも冠動脈バイパス術、経皮的冠動脈形成術などの治療を受けることで、元気で退院されるようになりました。当然のことですが、退院後はずっと、長く、外来通院し、医師の診察を受けなければなりません。
最近、ある患者さんから、外来通院の問題について、相談を受けたことを紹介しましょう。

私は五十六歳の時、乳ガンの手術を受けました。早いもので、この四月で丸五年が過ぎます。また、昨年は子宮ガンの手術も受けましたが、これは、乳ガンの再発、転移ではなく、全く別のものでした。どうも、ガンに好かれるタイプのようです(笑い)。乳ガンはT期、子宮ガンはゼロ期で発見しましたので、不幸中の幸いでした。日常生活も、今までと変わりなく過ごさせて戴いています。本当に感謝の気持ちで一杯です。最初は、自分を責めたり、家族を責めたり暗い辛い日々でしたが、でも、ガンになったことによって、今までの生き方を反省したり、今後の生き方の目標が立てられ、有り難いことかもしれません。なってしまったことは仕方がない、残された時間を有意義に過ごそう・・・と今はそう思えるようになりました。
右記のように、二つのガンの手術をしましたが、今はそのことも忘れてしまっている日々です。毎日、やりたいことがいっぱいあって、ほんとうに幸せに過ごさせて戴いていますが、一つだけ悩んでいることがあります。
本日はそのことの相談に乗って戴きたくメールをおくりました。
それは主治医のことです。私の主治医は一年ごとに変わります。今は山本先生(仮称)ですが、今年の四月から新しい先生になります。術後五年が経過し、六ヶ月に一回の割合で通院すれば、良いのですが、二回目に主治医と顔を合わせたとき、『次回から主治医がかわります』という話になります。経過が良い時は良いのですが、何か起きた時、やはり同じ主治医に診て欲しい、自分の思いをつたえたい。そんなことで悩んでいます。
再発、転移したとき、また、もうだめかと思ったとき(私はやるだけのことはやった。思いも伝えた。先生もやるだけのことはやってくださった)・・・・。そんな思いで最後を迎えたい・・・これは私に限ったことではないと思いますが、やはり悔いは残したくないのです。外科も婦人科もこの病院でお世話になっていますので、これからもずっとお世話になりたいと思っていますが、同じ病院の外科のなかで主治医を変わることは出来ないのでしょうか?私はずっとこの病院に勤務されている那賀先生(仮称)にお世話になりたいのです。今後のことを考えて、ずっとこの先生に診て戴きたいのです。どんな手順を踏めば良いのでしょうか?那賀先生の外来に突然行き、断られても困るし、ゴタゴタしてどっち着かずになっても困るし、そう思っています。先生から那賀先生にこの事を頼んでいただけませんでしょうか?お尋ねいたします。主治医のことが頭から離れず、ずっと悩んでいます。
よろしくご指導お願い致します(年齢、担当医名以外は原文のまま)。

市中病院の医師には就職している医師と大学病院などから派遣されている医師の二通りがあります。前者は大学病院で臨床経験を重ね、また、ある目的を達した医師達、例えば、医学博士の学位を獲得したとか、専門医を取得した医師達)、あるいは、個人的事情でその病院に就職した医師達であるのに対し、後者は病院支援のために、大学病院から出向している医師であります。従って、前者の医師は余程のことがない限り、その病院で長く勤務しますが、大学から出向している医師は大学の人事で、2〜3年ごとに交代します。大学から出向している医師が担当医の場合には、このメールのように患者さんには好ましくない状況が発生することがあります。患者さんにとっては担当医が変わる度に次ぎの先生がどのような医師であろうか、話し易い医師であろうか、相性が合う医師であろうかなど、不安が募り、そのストレスは医療人が考える以上のようです。「あの患者さんは担当医がいつも同じでいいなあー、それに比べ、私の担当医は2〜3年度に変わるので、その先生になれるのが大変だわ。どう考えても納得出来ないわ、不公平だわ」という不平・不満が出てくるのは当然です。
どこの病院もこのようなことがないように、2〜3年で交代する医師には外来を担当させないような体制をとっている筈ですが、メールにあるように、常勤医師が少ない病院では、どうしても、出向している医師にも外来を担当させざるを得ない状況となっています。
現在のように勤務医が少ない状況では、このメールのような問題を解消する方法はありませんが、医師が変わる場合には、現在担当している医師が次ぎの担当医を紹介するような配慮をすれば、患者さんの不安・不満はある程度解消するかもしれませんが、根本的な解決ではないことに忸怩たる思いです。
このメールは担当医が変わることのストレスを吐露されたもので、改めて患者さんの苦悩を覗きみた瞬間でした。



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