Kensuke Esato,M.D.
江里 健輔
 
江里 健輔
山口大学名誉教授
山口県立大学学長・理事長
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癒やしのそよ風(ほうふ日報)

変貌を求められる弧族社会での医療人 NEW
2012年11月20日

   防府日報(2012,11,20)

変貌が求められる弧族社会での医療人
       山口県立大学学長(理事長)
              江里 健輔

友人が
「92歳の母が一人で住んでいるが、2、3ヶ月に1回ぐらい様子を伺いに通っていた。ある日、訪れたところ、母がベットの横で座っており、排泄物が周囲にばらまかれたようになっていた。びっくりして、話を聞くと、ベットから落ちて、骨が折れて昨晩痛くて動くことが出来ずといいながら、オイオイと子供のように泣き崩れていた。もう少し、遅れていたら、母を見殺ししているところだった」
話してくれました。
日本の総人口は2010年1億2806万人ですが、2060年では8674万人に減少し、65歳以上人口はそれぞれ2948万人(総人口の23%)、3464万人(総人口の39.9%)となり、10人中、高齢者が4人、子供は1人となると推測されています。当然のことながら、死亡者数も現在の110万人から160万人に増える計算となります。医療・介護に何らかの介入をしない限り、医療・介護難民が出ることは火を見るより明らかです。
子育て、家事、病気、介護、供養などは家族が担ってきたのですが、核家族、単身化、長期雇用の崩壊、女性の社会進出、家族関係の希薄化、コンビニ・外食、産業の発展などによって、家族機能が縮小化するにつれて、弧族化が進み、今では民間の業者、各種NPO法人あるいは行政などがそれを担うようになってしまいました。赤い文字で書かれた電話番号など緊急連絡カードが肌身離せぬようになり、高齢者にとっては身内の者より大切となりました。ある老婦人が訪問販売人に法外なものを買わされ、さぞかし悔しい思いをされていると思って訊ねると「あの若い訪問販売人は親切でねえ、私の話しをじっくり聞いてくれちゃった。それは幸せでしたよ」と嬉しそうの話しておられたということでした。

医療の原点はman to manであり、その原点のもとに、医療人は@生命延長のサポーターであるが、一方ではA人生を豊かにするサポーターです。しかし、これまでの医療は前者が中心で、後者がなおざりにされていました。昭和40〜50年代では「生」と「死」が主な問題でしたが、平成時代になり、高齢化社会になり、「生」と「死」に加えて、「老」と「病」が大きな課題になってきています。この傾向は医学・医療の進歩で益々強まるに違いありません。そのためには、高度な医療技術の修得のみならず、人生を豊かにするサポーターとして、患者・家族に一人ひとりの心が理解でき、ケア出来る医療人が求められています。
「医療人は役者ごころを持て」と言われていますが、これまでのように生命延長を主眼とする医療人では対応出来ない弧族社会が押し迫っていることをしっかり認識すべきと思います。






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