Kensuke Esato,M.D.
江里 健輔
 
江里 健輔
山口大学名誉教授
山口県立大学学長・理事長
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その他

見直すべき、准看護師養成制度 NEW
2012年12月22日

   日本時事評論(平成24年12月22日)

           見直すべき、准看護師養成制度
        
                 山口県立大学学長(理事長)
                 公立大学協会顧問
                           江里 健輔

友人の准看護師さんとの会話です。
「先生、看護師であれば、准看護師も正看護師も同じと思っていました。しかし、経験を積むにつれて同じ業務をしながら、立場に大きな差があることに気づきましたが、もう、遅いと悔やんでいる毎日です」
「看護師の免許には准看護師と正看護師があることは知っています。給与が正看護師に比べちょっと少ないぐらいじゃないですか?それだけ責任の重さが違うでしょうが、他に差があるんですか?」
「一番の違いは准看護師は病棟や外来などの師長になかなかなれないんです。私は経験も長いから正看護師には負けないくらい自信がありますよ。悔しくて、悔しくて。でも、今から正看護師の免許を取ろうと進学コースに進むにも、家庭があり、主人や子供の世話をしなければならないし。これを犠牲にしてまで、進学コースに入って勉強出来る状況じゃないし。こんなことが最初から判っていたら、准看護師の免許を取っただけで終わらなかったのに」
と。
第二次世界大戦中、軍医が必要ということで、全国に医学専門学校が設けられました。しかし、戦後、医学専門学校は廃止され、全てが6年生大学になりました。即ち、二つあった医師免許が一つに改正されました。薬剤師は今では大学4年コースと6年コースがありますが、それは薬剤師の目指す方向に向けて質の向上を目的として設けられたもので、元もと、薬剤師の免許コースも一つしかありませんでした。
このように、医師、薬剤師養成制度とは異なり、看護師養成制度だけは矛盾を抱えながら、現在に至っています。しかし、最近の医学・医療の進歩は目覚ましく、看護師の質が問題になってまいり、准看護師のあり方が問われるようになりました。

神奈川県知事が准看護師の養成停止、及び医師会立等の准看護師養成所に対する補助金を打ち切る旨の方針に対し、准看護師の養成を停止しようとするのは、無謀としか言いようがない」(日医ニュース,No.1222)、それに拍車をかけるような羽生田俊日本医師会副会長の「准看護師の養成堅持の考えに変わりはない」(日医ニュース、No.1226)を目にしました。いずれも看護師の数合わせにのみに言及し、目覚ましい医学・医療の進歩の中で求められている看護の質の向上に背を向けた意見に過ぎません。
ペンシルベニア大学看護学部Eileen T. Lake准教授らが「看護の質が高いと認定された病院では生後7日以内の死亡、院内感染、重度脳室内出血の各発生率が有意に低い」と報告しているように(Medical Tribune,2012,7,5より引用)、今や看護力が患者の予後に著しく影響することは、医師が痛切に感じていることです。
この数年間に、看護師資質向上のために、准看護師養成機関は年々減少し、4年制看護大学が急増してきています。例えば、1991年に11校しかなかった看護師養成課程のある学部・学科を持つ4年制大学(看護系大学)が、2012年度には203校と増加し、入学定員もそれぞれ558人から1万6876人に増えました。この「右肩あがり」の傾向は高齢化社会になればなるほど益々強まるでしょう。
日本医師会は准看護師教育存続の理由として、@准看護師が地域医療を支えている、A療養病床は准看護師なしでは成り立たない、B働きながら准看護師になりたい人がいること、等をあげています。@、Aは准看護師を漸減し、一方では正看護師を増やすことで、Bには看護教育環境を改善する、例えば、現在の准看護師養成のための施設、財源をすべて正看護師養成に転換することなどで解決するでしょう。
そもそも、医師、薬剤師には「准医師」、「准薬剤師」制度がないのに、何故、看護師には「准」制度が存在するのでしょうか? 1992年の看護師等人材確保促進法の基本方針で「資質の高い看護師を大学で養成することが社会的に要請されている」が求められているように、看護の資質向上は急務の問題です。
高度の看護力を持つことが求められる人材養成に大学で授けている高等教育が望ましいことは火をみるより明らかです。今や、大学病院をはじめ大・中総合病院では准看護師はほとんどいなくなりました。このことは大学病院を始め、質の良い医療を提供しようとする病院では准看護師を必要としていないと言えます。日本医師会が主張する准看護師養成機関の存続は看護の質の向上を求めたものではなく、単に安い報酬で労働力を確保しようとしているに過ぎませんし、希望を持って准看護師を目指している若者に納得出来る説明を果たせているとは言えません。
ちなみに、平成24年より、質の高い看護師養成のために、大学4年間に、看護師、助産師の資格が与えられた現行制度を廃し、4年間は看護師教育のみに当てられ、助産師資格を希望する人には看護師資格を得た後に、更に1年間のコースを設けるようになりました。

国民に質の高い医療を提供するためには、チーム医療の重要性が叫ばれて久しいですが、チーム医療は同じレベルの知識あるスタッフで構成されていることが最低条件です。そのためにも、准看護師、正看護師など二つの免許がある現行の看護師養成制度を早急に見直し、医師、薬剤師養成のように一本化すべきでしょう。




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