Kensuke Esato,M.D.
江里 健輔
 
江里 健輔
山口大学名誉教授
山口県立大学学長・理事長
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その他

健康寿命は「食」で決まる NEW
2013年02月02日

  燦(2012,10,31)
    
    健康寿命は「食」で決まる
        山口県立大学学長・理事長
               江里 健輔

健康寿命とは健康な生活を何年過ごすことが出来るかという推計値、病気や怪我で日常生活に支障を来す期間を寿命から差し引いた値
(healthy life expectancy, HLE)で、日本男性:71.9 歳、女性:77.2歳と世界でも長い方です(読売新聞,2002,8,10)。今や、高齢者は「元気で長生きしたい」と、平均寿命ではなく、健康寿命を延ばすことに注目しています。
中世期の西欧の肖像画に出てくる女性はすべて豊満な幸せ感のあるものが多いことはご存じのことと思います。これは「太さ」は「富」、「強」、「美」の象徴で、「やせ」は食べるものがない、生命の衰え、更に「死」を連想させるもので、好まれなかったためとされています。しかし、現在のように豊穣な食生活の中にあっては、人類は太り続けています。10年前、14億人だった太り過ぎ人口は19億人に膨らみ、260万人が毎年、肥満のために死んでいるとも言われています(朝日新聞,2012,5,6)。肥満は糖尿病、高血圧、高脂血症をきたし、最終的には動脈硬化をもたらし、健康寿命を短縮させることになります。ちなみに、肥満、糖尿病、高血圧、高脂血症の四つが伴えば、このいずれも持っていない人に比べ、心筋梗塞などの虚血性心疾患発症の割合が約35.8倍になり、「死の四重奏」と言われています。
動脈硬化とは動脈が肥厚し、壁が固くなった状態で、このために引き起こされる病気を動脈硬化症と呼ばれています(図)。動脈硬化が進めば、やがて、血管内腔が閉塞します。通常、閉塞面積が血管内腔の75%以上になった時、症状が出てきますが、それまでは症状が出ませんので、気にすることなく生活しています。しかし、ある日、突然、血管内腔が完全閉塞し、急性心筋梗塞や脳梗塞などで、大切な命が奪われてしまいます。この様な血管状態は40歳ごろより始まり、70歳代になると、95%に見られ、高齢者の代表的な疾患となっています、厄介なことは、一旦、血管の壁が硬く、厚くなると、もとに戻ることがないことです。従って、既に動脈硬化になっている人がこれ以上に進まないように、また、なっていない人はならないようにすることが肝心です。
では、どのようにすれば良いのでしょうか?
「死の四重奏」にならないことです。それには運動、禁煙、節度あるアルコールの摂取、工夫された食生活など規律正しい生活をすることです。その第一が「食」です。山口県立大学看護栄養学部栄養学科人見研究グループらは「食」をとる順序が食後の血糖値の上昇に影響するという興味ある結果を得ています(パーソナル・コミュニケーション)。それによりますと、ご飯→野菜、野菜→ご飯という二通りの食べ方で、食後血糖値の上がりを調べたところ、食物摂取30分後の血糖値は、摂る前を100とした場合、前者が178%、後者が155,120分後ではそれぞれ129,119と統計的有意差はないものの野菜→ご飯の順に摂取した方が血糖値の上昇がゆるやかであったとのことです。この結果より、食事の際にはまず最初に野菜を摂ることで血糖値上昇が抑制されると言えましょう。
一方、白沢卓二らは17年間カロリー制限したアカゲザルで、長寿バイオマーカーである低体温、低インスリンなどが認められ、カロリー制限しないアカゲザルに比べ、1.4〜1.5倍寿命が延長したと報告しています。昔から、「腹八分」と言われていることを科学的に証明したものです。カロリーを制限すると、細胞内の酸化ストレスを抑制することで、病気の発症が抑制されるということも報告されているように、好きなだけ食物を摂取することはつつしまなければなりません(CLINICIAN,594,19-24,2011)。このように日常生活で、食物の摂取の方法に工夫を凝らし、その上で動脈硬化を防ぐ食餌を摂ることが大切です。一般に言われていることは@血管の弾性を保つ効果があるコラーゲンを含むもの(鶏に手羽先、ブリ、カレイ、ヒラメ)、A血液をさらさらにする不飽和脂肪酸をしっかりと摂ること(イワシ、サンマ)、B活性酸素を除去する抗酸化物質を含んだビタミンA,C,E を多量含む食材を摂ること(黒豆、人参、トマト、タマネギなど)が推奨されています。
津金らによれば、動脈硬化を引き起こすメタボリック症候群予防の一番の基盤となるものは和食を中心とした適切な食習慣で、薬剤に頼るのは最後の手段であると強調しているように、いくら薬剤を服用しても、生活習慣がでたらめであれば、薬の効果は得られません。例えば、欧米では禁煙出来ない患者に抗動脈硬化剤を処方することはありません。日本はそこまで徹底していませんが、血圧、血糖値あるいは、血液コレステロールなどを安易に薬でコントロールするという姿勢ではなく、まず、日常生活が抗動脈硬化のスタイルになっているかどうかを自己評価することが重要です。秋山らの1987年から2000人を対象に追跡した食・運動の改善で美しく老いるという研究で、15年後の健康度と強く関連する因子は、食事、喫煙、運動、生き甲斐、精神的自立などであったと報告しています(Medical Tribune,2007,5,24)。
少子高齢化で、如何に老いるかが問題になっていますが、Rowe&Kahn(1987) が定義しているようにサクセスフル・エイジングとは大きな疾患や障碍がないだけではなく、高い身体・認知機能を維持し、社会貢献を行えることです。健康寿命延長には適切な医療を受けることも重要ですが、生きる意義をはっきりと自意識し、それに向かって挑戦する「気」が重要であると申しても言い過ぎではありません。
存在感ある生活を持続したいものです。


付図説明
著明な動脈硬化をきたした冠動脈
 冠動脈内腔には粥腫(コレステロールや. 脂肪などの物質と血中にあるマクロファージといわれる物質が沈着したもの)が充満し、血液が流れる内腔は25%程度である。血液が流れる内腔が前内腔の25%以下になれば、運動時に胸の痛みのような症状が出現する。急性心筋梗塞はこの血管が完全に閉塞した時に発生する。



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