Kensuke Esato,M.D.
江里 健輔
 
江里 健輔
山口大学名誉教授
山口県立大学学長・理事長
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癒やしのそよ風(ほうふ日報)

救急患者受付拒否の内情 NEW
2013年03月14日

防府日報(2013,3、14)
    救急患者受付拒否の内情
      山口県立大学学長・理事長
             江里 健輔
平成25年3月6日、「25病院拒否、75歳死亡」という報道がありました。埼玉県久喜市の一人暮らしの男性(75歳)が「胸が苦しい」と119番に電話し、25の病院から計36回にわたって受け入れを断られ、そのうちに容体が悪化し、3時間後にたどり着いた病院で死亡が確認されたとのことでした。誠に痛ましい出来事で、患者さんに謹んでご冥福をお祈り申しあげます。
このような悲惨な,何とも形容しがたい出来事が報道される度に、受け入れを拒否した病院は「患者さんの尊い命をどう考えているの?」と白い目で見られがちです。しかし、いずれの病院もやむにやまれぬ理由があるのです。救急患者の場合、状態(軽症か重症か)が判らないので、万全の体制が敷かれた病院でないと責任を持って対応できないからです。この患者さんの主症状は、「息が苦しい」と報道されています。この症状から受け入れ病院としては、最悪の場合、喉に管を挿入し(気管内挿管)、人工呼吸器で呼吸を管理し、更には、心臓が止まった場合の心臓蘇生器をも使わなくてならないことを想定します。心臓蘇生器はどの病院でも用意されていますが、高額な人工呼吸器を確保しておくことは容易ではありません。何故なら、これを駆使出来る医師、看護師あるいは臨床工学士が必要となります。年間の使用頻度を考えれば、救急指定病院でさえ、病院経営を考える時、すぐに飛びつくような話ではありません。ちなみに、人工呼吸器を数台も持っている私立救急指定病院はそんなに多くはありません。
受け入れを断った多くの理由が「専門医がおらず処置が難しい」であったのは、このような実情からです。
患者さんを受け付けたくない理由に拍車をかけているのが医療訴訟です。例えば、予想に反した結果になった場合、専門外の医師であれば、それだけで不満・不平を主張され、時として訴訟に繋がります。病院としてはそのようなリスクを背負ってまで、急患を引き受けたくないということになるのです。私が医師になった昭和40年代には「リスクは高いが、百万分の一の生存の可能性に賭けて手術したものです。勿論、成功率は五分五分でした。しかし、今では、成功する可能性が高くなければ、治療しません。医療訴訟もこの問題の大きな一因とも言えます。
「挑戦」という治療が適切かどうかは問題ですが、医療への厳しい目が過度になると,助け得る可能性が少しでもある患者にも治療して上げられない、「まあいいや」という砂を噛むような虚無感を感じている医師は多いと言えます。患者さんの受け入れ拒否をなくすために必要なことは、救急病院の質の向上を図ることです。




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