Kensuke Esato,M.D.
江里 健輔
 
江里 健輔
山口大学名誉教授
山口県立大学学長・理事長
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癒やしのそよ風(ほうふ日報)

許されない本 NEW
2013年04月13日

防府日報(2013,4,12)        

許されない本
     山口県立大学学長(理事長)
             江里 健輔
隣の友人が
「今、爆発的に売れている本よ。とても良いことが書いてあるので、お医者さんの貴方にはためになると思うよ。読んでみては」
と持ってきてくれました。それは、第60回菊池寛賞を受賞した近藤 誠氏による「医者に殺されない47の心得」(アスコム、2012)でした。タイトルも奇妙ですが、非常識なことが書いてあります。近藤氏は慶応大学の講師で、専門は放射線科医です。読者は、一流の専門家が書いたのだから、医学的な証拠(エビデンス)があり、真実と思ってむさぼるように読まれておられるのでしょうが、医学的にみて沢山問題があります。それはエビデンスが全く示されていないからです。
例えば、心得20(ページ102)に「がん検診は、やればやるほど死者を増やす」、「本物のガンならすでに転移している」という項目があります。その中に「検診群では、人の命を奪う本物のガンが、放置群より早く発見できます。(中略)本物のがんなら、検診で発見できる大きさになるずっと前に、死亡の原因になる転移が成立しています」とあります。従って、死亡者数は検診群と検診を受けない放置群とで差がないので、検診は無意味だと。
詳しい数字に基づくデータを示すべきです。

福井県健康管理協会、松田一夫の報告によれば、大腸がんに罹患した人の累積5年生存率は精検受診群(116例)84.0%、精検未受診群(17例) 47.5%で,両者の間に統計的有意差があり、明らかに、精密検査の有用性が証明されています。勿論、松田氏の報告が全てのがんに当てはまるわけではありませんが、多くのがんで、早期発見、早期治療の有用性は衆知の事実です。
問題は、一流大学の講師という学会に身をおく立場でありながら、証拠も示さないまま、「命」に関わることを無責任に書いていることです。医学的知識の乏しい一般市民の方々は「お医者さんが書いているんだから。それも、一流大学の」と思い込み、真実と判断されることです。確かに、医者に受診したために予期せぬことが起こり、大切な生命を失うことがあります。何故なら、医学・医療は絶対的なものではないからです。しかし、医師に受診したために生命を失った者より、助かった者が絶対的に多いのです。この冊子を医学ではなく、随筆集として捉えても、医師という肩書きで、書く以上は、生命に関する挑発的な、扇動的な主張は差し控え、謙虚ではないでしょうか?



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