Kensuke Esato,M.D.
江里 健輔
 
江里 健輔
山口大学名誉教授
山口県立大学学長・理事長
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癒やしのそよ風(ほうふ日報)

ガンと闘えーガン鬼を体から追い出せ(その7) NEW
2013年11月12日

防府日報(2013,11,12)

ガンと闘えーガン鬼を体から追い出せ(その7)
     山口県立大学学長(理事長)
             江里 健輔

最近の医療では、どのような治療を受けるかは患者さん自身が決めなくてはなりません。これまでは、担当医がその病気と全身状態を適切に判断し、患者さんに最も適切と思われる治療を勧め、患者さんが了解して治療を勧めるというのが一般的な手順でした。これは一見、患者さんには大変良いようですが、どうしても担当医の独善的な判断になりがち、すなわち、自分の専門領域の治療を勧めがちになるので、患者さんに判断していただくようになった訳です。しかし、担当医から病気の説明を受けて「どうしましょうか?」と問われても、医療・医学知識が必ずしも豊富でないため、患者さんはただ戸惑われるだけで、自分自身で決めることは大変だろうなあ、とふと思ったものです。
手術の良し、悪しが予後を決めますし、術後順調に経過すれば、問題ないですが、術後出血、感染症などトラブルが術後発生した時に、即座に対応出来る病院かどうかを見極めておく必要があります。手術を受けるとなると、どの病院で、どの泌尿器科医に任せるべきか、医師の私でさえ決断しかねました。
担当医は「学長の希望に添いますよ。それとも希望される病院がありますか?それならば紹介しますよ。遠慮なく」と申してくれました。しかし、私から申し出るのはなかなか勇気のいることでした。
幸い、担当医の能力は勿論、医療の質も高い病院でしたので、そのまま、転院することなく、手術を受けることに決めました。
担当医が
「我々の病院には泌尿器科医は私を含めて2人しかいません。万が一、手術の最中に救急患者が運ばれたら困るので、他病院の先生の応援を頼みましょう。それでよろしいですか?」
と進言してくれました。
私は
「先生に任せるよ。しっかり頼む」
とだけ言うのが精一杯でしたが、正直ところ、ほっとしました。方針が決まると、手術日、術前検査、他臓器への転移の有無の検査が始まりました。
手術日は3週間後の8月17日と決まりました。こうなると、いくら医師でも「まな板の鯉」です。じたばたしても始まりませんが、前立腺の近くの大きな動脈を損傷しなければよいが、とか、麻酔するとき、気管に挿入するべき挿管チューブを間違えて食道にいれなければよいが、とありもしないトラブルが頭の中を駆けめぐります。このようなつまらない苦しみは手術待機期間が長ければ長いほど、倍加しました。現役の頃、患者さんに手術日を伝えると、患者さんからしばしば「そんなに待つと病気が進行しませんか?」と訊ねられたものですが、今、自分が手術を受ける身になると、患者さんの言葉の裏には「この不安を早く、早く取り除いて!」という悲痛な叫びであったような気がし、申し訳ないという悔やみばかりでした。悶々としながら、手術日を待ちました。




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