Kensuke Esato,M.D.
江里 健輔
 
江里 健輔
山口大学名誉教授
山口県立大学学長・理事長
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癒やしのそよ風(ほうふ日報)

ガンと闘えーこれからが勝負だ(13) NEW
2014年05月23日

防府日報(2014,05,18) 
     
       ガンと闘えーこれからが勝負だ(13)
                 山口県立大学理事長
                      江里 健輔

待ちにまった尿道造影検査日。午後2時頃、看護師さんのコールで車椅子に乗せられ、泌尿器科外来レントゲン室へ。ひんやりとした感情のないレントゲン台。担当医が、導尿カテーテルを1メートルの高さに持ち上げて、カテーテルに造影剤をゆっくり注入。注入が終わると、膨らんでいる導尿カテーテルのバルーンを萎ませ、膀胱から流れ出た造影剤が尿道から漏れていないかどうかチェックします。ゆっくりと流れ出た造影剤が少し漏れている像がレントゲンスクリーンに映し出されました。「駄目か?」と思わず、侘びしい小声が出てしまいました。担当医はじっとそれを見つめながら
「この程度の漏れなら大丈夫だろう」
と言い、おもむろに、
「学長、導尿カテーテルを抜きますよ」
と一大決心をしたかのように大声で私に話しかけてくれました。
「漏れているのに大丈夫なの?」
と甚だ失礼な質問をしました。例えば、私の専門領域の腹部の手術では、縫った腸が完全にくっついていないと、腸の内容物が腸管から出て、腹膜炎を起こすので、ドレーン(腹の中にある不要物を体外に誘導する管)を抜くことは出来ません。彼は私の質問を無視するように、すっと抜いてしまいました。その途端、これまであった陰部の重い違和感がすっとなくなりました。
「これで手術の呪縛から解放され、自由の身になった」
と心のなかで叫んでしまいました。
担当医は
「これで熱がでなかったら、2日後には退院されてもよろしいですよ」
と、喉に詰まったような湿った小声で退院を許可してくれました。
こうなると入院しているのがもったいない気分になり、術後、16日目に病院を後にしました。退院日、担当医が
「先生の場合、所属リンパ節に転移なく、ガン細胞のリンパ管浸潤、静脈浸潤もありません。早期ですから、術後の抗がん剤の投与、レントゲン照射などは必要ありません」
「じゃ、再発はゼロかね?」
「そりゃ、分かりませんよ。唯、顕微鏡レベルでは、神経浸潤がわずかにあるとのことですので、PSA(ガン再発のマーカー)だけは定期的に測定する必要があるでしょうね。0.2ng/ml.以上だと再発ということになりますから」
と、ここでも喉に何かが詰まったような、湿気を含んだ声です。
思わず、これまでは医師に頼ってきたが、これから頼るのは、己だけだ、ガンにみこまれたからには、一緒に上手に過ごすしかないな

「みこまれて、癌と暮しぬ草萌ゆる」(石川桂郎)
を意識したものです。





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