Kensuke Esato,M.D.
江里 健輔
 
江里 健輔
山口大学名誉教授
山口県立大学学長・理事長
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風のとき(宇部日報)

おばちゃん、それはないでしょう NEW
2014年06月25日

おばちゃん、それはないでしょう
         山口県立大学理事長
              江里 健輔
この頃は自動販売器があるので、駅員さんの手間を借りずに、チケットを購入できますので、チケット販売窓口での諍いは少なくなりましたが、最近、不愉快な経験をしましたので、紹介しましょう。
各JR六社が運営しているジパング倶楽部をご存じでしょうか?会員になるための条件は男性満65歳、女性満60歳以上で、所定の手続きをすれば、3割引で乗車券を購入出来る会員になれます。これを活用するには会員に送られてくるJR乗車券購入証に必要事項を記入し、それを窓口に提示する手続きが必要です。
私がその手続きをしている最中、75歳くらいのおばちゃんが
「時間がないから、すぐ手続きして頂戴、遅れそうなの、もし乗り遅れたらどうするの?」
と責任を取れと言わんばかり。私が
「時間がないのであれば、もう少し余裕を持って、窓口に来られたらどうですか?」
と不機嫌に諭しました。そのおばちゃん、
「貴方に向かって言っているのじゃないの。駅員さんに言っているの」
「でも、今、駅員さんは懸命に手続きされているじゃないですか?無理なことを言わんことですね」
と駅員さんを庇うように言い、更に、
「駅員さん、私は後でいいですから、このおばちゃんを先にして上げて下さい」
と一歩前に出ました。駅員さんは不平らしい言葉を発することなく、黙って、おばちゃんのチケットを急いで発行されました。おばちゃんはチケットを鷲づかみし、有り難う、すみませんでしたというお詫びの一言もなく、そさくさと列車の中に消えさりました。
「あんなおばちゃん、困ったものですね」と駅員さんを慰めるように問いかけました。駅員さんはただ微笑んでおられるだけでした。
「離見の見」という世阿弥の言葉があります。これは舞台で舞う自分を見物人として冷静に眺めるもう一つの目が必要だという意味ですが、このおばちゃん、まず、自分があり、自分を中心として「世界」があると考え、その世界は自分のものと思い、思い込むほど、自分は正しいと確信されているようで、「離見の見」という姿はないようです。
母親が子供を殺(あや)めるような嘆かわしい日本になったのは案外こんな些細なことの積み重ねかもしれませんね。




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