Kensuke Esato,M.D.
江里 健輔
 
江里 健輔
山口大学名誉教授
山口県立大学学長・理事長
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風のとき(宇部日報)

小川信雄の先見性 NEW
2014年11月27日

宇部日報(2014,11,27)     
      小川信雄の先見性
                山口県立大学理事長
                     江里 健輔

高輝度青色発光ダイオードの製造方法の発明・開発研究に対し、2014ノーベル物理学賞を授賞した中村修二さんを知らない人はいなくても、小川信雄さんを知っている人は少ないのではないでしょうか?
中村さんは授賞に際し「会社勤めの頃、製品がさっぱり売れず、会社の『無駄メシ食い』と罵倒された。昇進は後輩に抜かれた。開き直ってからは上司の命令を一切聞かず、電話は取らず、会議の招集も無視して研究に没頭した。それが出来たのも日亜化学の先代社長小川信雄さんのお陰。彼には本当に感謝している。彼の研究支援がなかったら、ノーベル賞はなかった」と述べています(讀賣新聞、2014,10,8より、一部改変)。中村さんの小川さんへの感謝の念は光を遮断された暗闇のなかでただ一つ輝く星のようなものであったのでしょう。
それにしてもすごいのは、このユニークな研究者中村さんを徳島という地方の中企業にも拘わらず、当時では破格の3億円の研究費用を与え、更に、アメリカ合衆国フロリダ大学に留学させた英断は見事なものです。
今、社会はリーダーシップ、謙虚、協調性、適応力、学習や再学習への熱意のある人材の養成を大学に求めています。このニーズと中村さんの会社員としての姿勢は全く相容れないものです。それなのに、何故、小川社長が中村さんにこれほどまでの支援をしたのでしょうか?まさか、中村さんの研究が「お金」になって会社が儲かるとか、世界の嚆矢(こうし)の研究になるなどという確信があったとは思われません。しかし、唯、単に、度量の広い創業者と言ってしまうには小川さんにあまりにも失礼な話で、これを聞いた小川さんは鳥肌が立つような不快感を覚えられるような気がしてなりません。中村さんの能力を高く評価されていたのは当然ですが、中村さんに研究者としての筆舌しがたいオーラがあり、それに小川さんが惚れられ、そこには唯心があるのみだったのでしょう。
松下幸之助は会社のために有能な人材になれるかどうかは、将来に向けたオーラがあるかどうかである、それを的確に見抜くことが出来るトップでなければ、組織の発展はないと言われています。
小川氏には我々凡人には計りしれない計画があったに違いありません。計画とは「将来の意思」、現在から飛躍し過ぎて、無理があり、実現不可能に見えるものを立てることです。現在の延長線上にあり、合理的であり、実現可能な計画はむしろ「予定」と呼ぶべきです。人材を育てた有能な人に与えられるノーベル賞があるとすれば、小川さんはきっとその第一人者に間違いありません。



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