Kensuke Esato,M.D.
江里 健輔
 
江里 健輔
山口大学名誉教授
山口県立大学学長・理事長
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癒やしのそよ風(ほうふ日報)

いちかばちか NEW
2015年04月26日

防府日報(2015,04,26)
            いちかばちか
              山口県立大学理事長
             江里 健輔

神戸市の民間病院「神戸国際フロンテイアメデイカルセンター」で、生体肝移植を受けた患者7人のうち、4人が1ヶ月以内に死亡していることが判明し、日本肝移植研究会が、問題がなかったかどうか調査を始めたとの報道があった(日経新聞、2015,04,15)。この領域のパイオニアである田中紘一院長は「当院には全国各地から患者さんが受診され、その中には他病院で手術を断られた重症の患者さんもおられる。手術死亡率が高いのは私の責任だか、患者さんや家族には十分説明し、理解を頂いている」とコメントされた。
この手術成績が不当であるかどうかは今後の調査で明らかになるであろうが、報道にはスタッフが5人と少ないとか、合併症に対応する診療体制が整っていない、という如何にも病院の診療体制が不備であったような憶測の内容が実態を調査せず報道されていた。
どのような手術でも100%安全ではない。手術成功率が極めて低く、言葉は悪いが「いちかばち」かであっても、手術しか患者さんを助ける手段がなければ,患者さんや家族の承諾を得て手術の踏み切ることは多々ある。
例えば、私が現役の時、手がけてきた腹部大動脈瘤(腹部大動脈の局所が瘤のように膨れる)は、放置すると破裂する可能性があるので、出来るだけ早期に手術し、その成績は良好であった。しかし、一旦、破裂し、放置すると死亡率100%で、手術成功率も極めて低くなる。
「手術成功率は10%です。しかし、手術を受けなければ100%亡くなられます。わずかな可能性に賭けてみられますか?」
と説明する。
「先生、10%に賭けてみますので、手術して下さい」
と、承諾される。
昭和50年頃は、このような「いちかばち」かの手術も問題にならなかった。しかし、現在では、「初めから手術ありき」とか「人の命を『賭け』ごとをするように扱うのは,生命の軽視」と非難される。
かくして、「いちかばちか」のような危険性の高い手術を,医師が立ち向かうことを避けるようになる。すると、万が一、助かる命も見放されることになる。一番の不幸は患者さんである。
調査結果が判明するまえに、医療不信に繋がる内容が報道されると、医療への不信はますます増長されることになる。
憶測による報道は厳に慎んで欲しい。





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