Kensuke Esato,M.D.
江里 健輔
 
江里 健輔
山口大学名誉教授
山口県立大学学長・理事長
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その他

ヒートショックと循環器疾患 NEW
2015年08月20日

雄飛(2015,08,20)
     室温に配慮しよう{ヒートショックと循環器疾患)
             山口県立大学理事長
                           江里 健輔

住宅の善し悪しが体に影響し、命を失うことになると言われても、ほんとかな?、と思われるでしょう。日本には住宅環境と健康との間に密接な関連があるという意識がほとんどありません。徒然草の著者である吉田兼好も「家の作りようは夏をむねとすべし。冬はいかなる所にも住まる」と述べているように、日本の家は夏に合わせて作られてきました。従って、日本には断熱という考えがなく、冬に寒いのは当然で、我慢し今日(こんにち)に至っています。
最近、室温が健康に強く影響することが分かり、いろいろな領域で検討されるようになりました。
本来は屋外で発生し、屋内での発生は稀とされていたヒートショック現象とは、急激な温度変化によって、体内血管が急激に伸縮し、血圧・脈拍が変動し、いろいろな循環器疾患を起こすことです。血管が伸縮することで、もっとも影響を受ける臓器は脳と心臓です。ちなみに、起床時最高収縮期血圧は居間室温10度では155mmHg,14度では142mmHgと約10mmHgの差があります。血圧が高いと、脳出血や心筋梗塞が発生し易くなります。脳出血は血管が破綻し、血が脳内に出てきますので、緊急治療が必要となります。一方、心筋梗塞は血管が閉塞するものです。ほとんどの高齢者には動脈硬化がありますので、多かれ少なかれ血管が硬く、細くなっています。そのような状態にある血管が収縮すると、血管が更に狭くなり、あるいは閉塞し、血液が流れなくなり、脳細胞が死滅します。いずれも致死的な疾患です。
室温が生命に一番影響するのは入浴中の事故死です。ヒートショック死の一つである入浴中の死は本邦では1万9000人以上と推定されています。これは、脱衣室で服を脱ぐと、寒冷刺激で、体表面の温度が低下(約10℃程度)します。そうなると、血管が収縮し、心筋梗塞を、血圧が急上昇し、脳出血を発生することになります。通常、脱衣室には暖房施設が備えられていませんので、居間との温度差がもっとも高いため、このような疾患が発生し易いのです。従って、お風呂の部屋のドアをいつも開けておいて、出来るだけ居間と同じ温度にするようにすれば、ヒートショック死を少なくすることができます。
本邦では暖房にかかる年間エネルギー消費量が欧米の1/4〜1/6と報告されています(日経新聞、2015)。ちなみに、冬の寒さによる心筋梗塞の自宅死亡率は@四国、A近畿、B中国の順で高く、寒冷の北海道は以外に少なくI番目です。理由は、断熱化が進んでいるためです。
日本の暮らしは段々豊かになってきましたが、室内温度に配慮された住宅はまだ十分といえません。英国が推奨しているように、室温21℃の住宅を設けるよう当局が推進して欲しいものです。





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