Kensuke Esato,M.D.
江里 健輔
 
江里 健輔
山口大学名誉教授
山口県立大学学長・理事長
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癒やしのそよ風(ほうふ日報)

「危ない玄関」
2015年08月22日

防府日報(2015,08,20)
       「危ない玄関」
        山口県立大学理事長
              江里 健輔

私事で申しわけありませんが、私の姉が今年89歳でなくなりました。若い時には何事にも興味津々で、アクテイビテイーの高い姉でした。その姉が寝たきりになったきっかけは転倒で、大腿骨、上腕骨などの骨折を繰り返し、手術、床上の安静、リファビリを繰り返すうちに、下肢筋が廃用萎縮(使わないために、筋力が低下し、機能不全に陥る)し、歩行不能になり、寝たきりとなりました。
このように、高齢者の転倒はその後の日常生活の「QOL」を極端に低下させます。
高齢者の転倒原因はさまざまですが、本質は加齢による神経機能の低下です。糖尿病性末梢神経障害やパーキンソン病を伴えば、さらに複雑となってきます。いずれも、神経伝達が遅くなり、平衡感覚保持能力の低下によるものです。従って、若い時にはさっと出来たことが出来ず、時間がかかります。「昔はもっと早くできたのになあー、何故、出来ないのだろう」と歯がゆい思いをしますが、瞬発力が低下し、動作が緩慢になりますでので、どうしようもありません。歩行も、大きな歩幅で歩くと平衡感覚が低下しているため、ふらふらし、転倒を防ぐために千鳥歩きになりますし、高いところにあるものを取るにもふらふらし、簡単に転倒します。
そのような中で、残念に思うことは、最近、建てられる家の玄関です。私は毎朝1時間ぐらい散歩します。どの家も外見では住んでみたいような魅力的な家ばかりです。玄関の横に自家用車を数台おける広いスペースがあり、玄関のドアもすっきりし、開けたくなるほど素晴らしいです。問題は、玄関に通じる5〜6段からなる階段です。この階段は元気な人達にはすばらしいでしょうが、歩行出来ない人や車椅子生活の人、あるいは高齢者にとっては、単なる障害物のなにものでもありません。
私には
「どうぞ、この階段を上って、私達の自慢の玄関に入って下さい。階段を上がられない人は玄関に入るのを諦めてください」
と宣言しているように感じられ、何となく違和感を覚えます。どうして、階段の側に車椅子が通れる緩やかなスロープを設けられなかったのか、何時かは、貴方も車椅子の世話になりますよ・・・・と。ステキな家がなんとなく人を寄せ付けない冷たい兵舎のように見えてきます。
誰もが歳を重ねるうちに、思う様に動くことが出来なくなります。
誰でも受け入れてくれる「優しい家作り」をして欲しいものです。



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