Kensuke Esato,M.D.
江里 健輔
 
江里 健輔
山口大学名誉教授
山口県立大学学長・理事長
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癒やしのそよ風(ほうふ日報)

責任を持って反対を NEW
2015年09月29日

防府日報(2015,09,21)   
   責任を持って反対を
               山口県立大学理事長
                    江里 健輔

関東・北関東を襲った豪雨で、命を省みず救出しようとされている自衛隊員の姿をテレビで見ながら
「お父さん、このような自衛隊員さんの姿を見て、自衛隊反対を当時唱えた人達はどう思っているのかね。意見を聞きたいね」
と珍しく神妙な顔をして問いかけてきました。
そうです。反対者は身勝手で、後がどうなろうと責任を取りません。
最近、衝撃的な小説が私の目に飛びこんできました。菊池寛の小作品「ある抗議書」です。既に9人の命を奪った強盗(坂下鶴吉)に惨殺された角野一郎夫妻の肉親の者が司法大臣に宛てた手紙という形式で書かれたものです。死刑判決を受けた鶴吉が処刑2年後に弁護士によって上梓された「坂下鶴吉の告白」の中
で、獄中という一種の国の庇護のもとにあってキリスト教宣教師の指導で敬虔なキリスト教徒に生まれ変わり、喜び溢れ、光栄に輝きこの世を去ったと記されているのに対し、被害者は地獄に落ちる苦しみの中で殺され、残された家族はやるせない、名状し難い無念さで、毎日を悶々と彷徨っている。国家の刑罰の砂を噛むような不公平に対し、悲憤を訴えています。著者菊池寛は、死刑廃止論者などは、自分の妻なり子なりが強盗になぶり殺されても、死刑廃止論者であり続けるであろうかと疑問を投げかけています。
医療の世界で、2009年ごろ臓器移植法改正案が問題になったことがありました。「死」の定義をめぐって反対者は、「患者が脳死と診断されると延命治療が中止される懸念がある」とか「無呼吸テストを含む法的脳死判定は、死を早める危険性がある」と言うような荒唐無稽な議論を延々とし、最終的には、声高だかに「死の定義を変えるような法律は絶対認めることは出来ない」と訴え、脳死からの臓器移植が欧米より約20年遅れました。その間、助かる生命が石ころのように葬むられました。
いろいろな意見が討議され、世間一般に公開される社会は健全である証拠ですが、当事者しか分からない怒り、悲しみを汲み取ることなく、非医学的な反対理由を掲げることで、自己のプレゼンスを高めようとし、更に、空気に支配されやすい国民を扇動しようとする自称「文化人」に、言葉では示せない悲憤慷慨を覚えるのは私だけでしょうか?



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