Kensuke Esato,M.D.
江里 健輔
 
江里 健輔
山口大学名誉教授
山口県立大学学長・理事長
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癒やしのそよ風(ほうふ日報)

人口減少に伴う医療問題(1) NEW
2016年03月31日

ほうふ日報(2016,03,31)
     人口減少に伴う医療問題(1)
―歯止めが効かない医療の「質」の低下―
         山口県立大学理事長
              江里 健輔
友人から
「大腸ガンで手術をした方がよいと言われたんだが、ええ先生を紹介してくれんかのう」
「お前が言うええ先生って、どんな先生か?」
「そりゃ、大腸ガンの手術を沢山した経験豊富な先生だよ。天皇陛下を手術された先生も経験豊富だから、執刀医に指名されたんだろう」
このような問い合わせをしばしば受けます。手術を受ける側としては完全な手術を受けたいと思うのは当然で、希望に応えてあげたいと思っても、そのような外科医を探すのは簡単ではありません。理由は人口減少です。ご承知のように、高齢者人口の増加、生産年齢人口の減少が我が国では問題になっています。大都市部のある都道府県では今しばらくは人口増加傾向にありますが、過疎地域の多い府県では、すべての年代が人口減少に向かっています。人口が減少すれば、医療にどんな問題が起こると思われますか?例えば、人口6万弱の某市には近くには大学病院があるにも拘わらず、病院が3つあり,このうち、2つの病院は急性期病院を標榜し、ベット数はそれぞれ約300床余りと200床余りで、外科医が前者には6人、後者には3人が常勤しています。外科医3人で出来る大手術は胃ガン、大腸ガン手術ぐらいで、しかも、外科医スタッフ全員が手術に関わりますので、急患が運ばれても対応出来ず、他病院に転送せざるを得ません。当然、年間の手術件数も少なく、学会・研修などへの参加も限られたスタッフ数のため制限されてきます、それに伴い、外科医の「質」も低下してきます。一方、他の一つの病院は外科医が6人常勤していますので、手術件数も多く、肺疾患や血管疾患などのあらゆる疾患にも手術出来ます。人口わずか6万人の市に同じような機能を持つ病院があることは限られた医療資源と人材では極めて非効率です。外科医を例にあげましたが、人口減少でそれぞれの診療科の医師も経験数が少なくなり、「質」の低下はますます進み、良い医師を紹介するどころではありません。

これを防ぐためにはどうすれば良いでしょうか?病院の統合、病院の機能分別による診療集約化しかありません。例に上げた某市では、同じような特質を持った二つの病院を統合し、ベット数500余りの病院になれば、常勤外科医も9人となり、大手術にも対応でき、外科医の「質」も向上し、地域の住民にも満足して貰える医療を提供できるようになります。
既に、山口県でも機能分化を推進し、手術件数も全国で10本の指に数えられるほどの多数の手術を行っている病院もありますし、二つの病院を抱えている市では病院を機能分化し、経営も順調で、良質な医療を提供しています。
住民に信頼される医療を確保するには、人口動態の状況に応じて、医療の質の低下を止め、満足する医療を提供する立場から、同じような機能を有している病院を抱えている市・町では果敢な改革に取り組んで欲しいものです。



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