Kensuke Esato,M.D.
江里 健輔
 
江里 健輔
山口大学名誉教授
山口県立大学学長・理事長
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風のとき(宇部日報)

終末期、「口から食べられなくなった?」、 NEW
2016年05月26日

宇部日報(2016,05,26)

終末期、「口から食べられなくなった?」、          
      山口県立大学理事長                         
            江里 健輔
日本の医療費は右肩上がりで増え続け、1990年度には20兆円を突破、2013年度には約40兆610億円となり、40兆円を超えました。理由は高齢化です。高齢者は若い世代よりガン、心疾患、脳卒中などの病気になりやすいし、なかなか治りにくいです。なかでも、脳卒中は寝たきりになる原因として最も多い疾患です。一方、要入院の患者さんは増え続けますが、ベット数には限りがありますので、ベット数が足りなくなり、必要な治療を受けられない人が出ることが懸念されています。そこで、政府は医療を増やさないためにも、また、容体が比較的安定した慢性期疾患の患者さんは病院ではなく、自宅などで医療や介護を受けながら、地域で暮らす仕組み、即ち、「病院から在宅へ」を推進しています。しかし、このような仕組みを変えるだけでは不十分であることは明明白白であります。
ご承知のように日本では自分で食事が摂取できなくなった場合、@鼻腔栄養(管を鼻から胃の中に挿入し、その管を通して栄養物を入れる)、A胃瘻造設(皮膚表面から胃に穴を開け、その穴に管を入れ、先端は体外に出し、その管から栄養物を注入する)、B中心静脈栄養(首の静脈へカテーテルを挿入し、その先端を心臓の入り口まで導入し、カテーテルを通して市販の高カロリー静脈液を注入する。静脈炎などが発生しないので、長期間留置が可能)などが積極的に行われています。これらの手法を用いれば、必要なカロリーは補給できますので、合併症を併発しない限り長期の生存が可能となります。これに対し、北欧では自らの口で食事が出来なくなった場合、嚥下(えんげ)訓練を徹底的に行い、それでも食事摂取が出来ない場合には無理な食事介助や水分補給を施さず、そのまま自然な形で看取ることが一般的で.その結果、寝たきりになる前に亡くなるので、北欧には寝たきり老人はほとんどいないということです(日経新聞、2015,08,24)。日本人と北欧人とは「死生観」が異なるので、北欧式の終末期あり方をそのまま日本に導入することは受け入れがたいですが、「食べられなくなったら諦める」という「死生観」が芽生えれば、高齢者への医療も大きく変化するものと思われます。
そのためにはどのような状態になった時、食事の投与を止めるかなどが問題になりますが、読者の皆さんはどうされますか?元気になる可能性はないのに、無理やり栄養補給されても生きたいですか??



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