Kensuke Esato,M.D.
江里 健輔
 
江里 健輔
山口大学名誉教授
山口県立大学学長・理事長
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癒やしのそよ風(ほうふ日報)

人口減少に伴う医療問題(6―赴任を認めないー NEW
2016年07月27日

ほうふ日報(2016,7,27)
    人口減少に伴う医療問題(6)
     ―赴任を認めないー
         山口県立大学理事長
              江里 健輔

私が大学に勤めていた頃には、大学病院が収入を獲得することにあまり神経質になっていませんしたので、診療もおおらかなものでした。しかし、大学病院が独立行政法人化され、病院は大きく様変わりしました。即ち、稼ぐ大学病院が高く評価されるようになり、地域医療を担うという責務は二の次となりました。つまり、地域の病院の人気が高まり、患者が大学病院よりそちらに流れるようになっては困るということになってしまいました。このため、大学病院は地域の病院への医師派遣を制限するなどして、これらの病院へ患者が傾くことに手心を加えだしたました。
こんな奇妙な話があります。
A大学の関連病院であるX病院には脳外科医が不足し、A大学病院の教授に医師派遣を依頼していましたが、適任者がいないということで派遣して貰えず、X病院長は対応に苦慮していました。幸い、東京のY病院に勤務しているB医師が地元に帰りたいという情報を得て、この医師と交渉を始めました、B医師は主任部長が許可してくれれば、転勤しましょうという内諾を得ました。喜び勇み、直ちに、A大学の主任教授に東京から若い医師が勤めてくれるようになったと報告しました。主任教授は黙って聞いて「それは良かったですね」と賛意を示しました。これで、X病院長は脳外科医不足は解消出来たと喜色満面でした。
ところが、3週間後、B医師から、転勤できなくなったという電話がありました。X病院長は、その理由を確かめたところ、主任部長の許可が得られないということでした。その理由は、A大学病院の主任教授の圧力でした。主任部長に「この人事は止めて欲しい。大学に無断で人事をされては、大学が構築している地域医療が崩壊する」。その上、主任教授は2年後には学会を主宰する予定で、この人事を止めてくれれば、学会で満足できる対応が出来ると思うという話しが付け加えられたとことでした。主任部長は学会で重要なセッションの責任者に指名されれば、これまでの臨床研究成果を全国に報告できる絶好のチャンスと、直ちに教授の申し出を承諾し、若手医師の転勤を許可しませんでした。B医師も主任部長の許可を無視してまで、X病院に転勤する強い動機もなく、また、これからのこともあることより、転勤を止めることにしたということでした。
このように、大学の人事を掌握している一人の教授の思いで地域医療が揺れに揺れます。地域医療に理解ある教授の元では医師派遣をはじめ地域医療は円滑に運営されますが、その逆の場合には惨憺たる結果をもたらします。地域医療が一人の大学教授に左右される構図を解消するには大学病院が収入を追求する組織ではなく、医師を養成する組織として位置づけることが肝要であります。当局も汗を流して貰わなければ、医師不在はこれからもずっと解消しないでしょう。



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