Kensuke Esato,M.D.
江里 健輔
 
江里 健輔
山口大学名誉教授
山口県立大学学長・理事長
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癒やしのそよ風(ほうふ日報)

患者さんの要望の応えるには NEW
2017年06月27日

ほうふ日報(2017,6,27)
患者さんの要望の応えるには
山口県立大学理事長
江里 健輔
深夜に家族が看護詰め所を訪れ
「お父さんが苦しそうです。すぐ担当医を呼んで下さいませんか?」
「担当医は自宅です。当直医がいますので、当直医に対応させます。ちょっと待って下さい」
「お父さんが苦しんでいるのに、担当の先生は自宅で寝ているんですか?呑気なものですね。何時(いつ)でも駆けつけて診てくれるのが担当医じゃないですか?それで担当医としての責任が果たせるのでしょうか?自分の子供なら、万難を排し、駆けつけられるでしょう。患者さんは他人だからですか?」
「・・・・・」
上記の会話は深夜看護師さんと患者さんの家族とのやりとりです。患者さんや家族にとって担当医は24時間対応してくれるのが当然だという思いがあります。仮に「当直医に任せています。私は非番ですので」と患者さんや家族に告げたら「無責任」とか「医師ともあろうものが」という誹りを受けることになります。
新潟市民病院の女性研修医が2016年1月に自殺し、新潟労働基準監督署が「長時間の時間外労働で、うつ病を発症したのが原因」と労災認定しました。発症前の直近1ヶ月で160時間を越える時間外労働があったとのことです。
この女性研修医の感情に思いを馳せる時、彼女の悩みが言葉に言い表せないほど深いものであったと推量されます。研修医ですので、患者さんの様態が悪化した場合、病院に駆けつけ、診察し、上司に連絡し、上司の指示を受けます。担当患者さんが重症であれば病院に泊まります。しかし、いくら疲れても、へとへとになっても患者さんや家族からの期待と思いを脳裏に浮かべ、医師としての当然の義務として我が身を省みず、24時間治療に専念します。これは研修医のみならず担当医も同じです。このような行為が患者さんから信頼され、尊敬されることに繋がります。
深夜勤務の看護師さんにとって、「いい先生」の第一条件は“何時でも駆けつけて、診療して呉れる医師」です。
担当医に診て欲しいという患者さんや家族の心情は良く判りますが、医師の時間外労働を減すためには、当直医の診察で満足するという文化が育たない限り、今回のような悲惨な事例はこれからも発生することでしょう。
欧米などは勤務時間が終わりましたら、いかなる理由があろうとも、業務から開放されます。医療界も組織的に時間外労働を減すことに努めなければなりませんが、患者さんの側にも担当医、担当医が診るのが当然だという文化を払拭して欲しいものです。



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