Kensuke Esato,M.D.
江里 健輔
 
江里 健輔
山口大学名誉教授
山口県立大学学長・理事長
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癒やしのそよ風(ほうふ日報)

許されない悲劇 NEW
2017年07月28日

ほうふ日報(2017,7,28)
許されない悲劇
山口県立大学理事長
江里 健輔

このプログを読んだ瞬間、背筋に冷水を掛けられ、ぞくぞくし、身震いが止まりませんでした。彼女の2014年2月のプログです。
「主人と人間ドッグを受けました。娘が生まれた1年半後に息子が生まれ、この時、9ケ月。まだ授乳中でした。(中略)人間ドッグで超音波の検査で、腫瘤が見つかりました。
精密検査の日。まず触診。先生に「このしこりですね」といわれましたが、同じように触ってみても、自分ではさっぱり分かりません。
もう一度超音波とさらに、マンモグラフイーでも検査を受けました。(中略)結果、ガンを疑うようなものではないとのことでした。
「人間ドックの先生には、五分五分でガンと言われたのですが、生検しなくても大丈夫でしょうか」(下線は著者)と聞いてみると
「必要ないでしょう、授乳中のしこりですし、心配いらないですよ。半年後くらいに、念のため、また診てみましょう」と言われました。
生検の必要性を確認した彼女の姿勢は拍手喝采と諸手をあげてすごいと。この彼女こそ、乳ガンで亡くなられた小林麻央さんです。
2014の10月に固定した乳房に固まりを触れ、6ケ月後の8月に検査を受けなかったことを悔やんでおられます。
問題は外来診療医が麻央さんの進言を否定したことです。虚心坦懐に麻央さんの希望に沿って生検されていれば、今回の悲劇は避けられたかもしれません。麻央さんは授乳中で、さらにお母さんも乳ガンに罹られておられます。この二つの条件を考えれば、生検の適応です。
「生検」は腫瘤の細胞を顕微鏡的に調べる検査です。超音波検査が現在のように発達していなかった頃には乳房を切開し、腫瘤の一部を切除し、細胞を取っていましたが、今はそのような必要はありません。超音波検査で、腫瘤を確かめ、その腫瘤に細い針を穿刺し、吸引し、細胞を取り出すものです。確実に穿刺できますので、当たり外れがありません。その上、メスを加えませんから、患者さんの負担の殆どありません。授乳中の乳房切開は切開のための合併症を考えると勧められる検査ではありませんが、穿刺であればなんら問題ありません。
検査をするかどうかの決定権は医師にあります。医師が必要と認める時に検査を行い、患者の希望に応じて検査をすることはありません。それだけに医師は一つしかない、取り返しの出来ない人命を預かり、患者さんも信じて医師のアドバスを受けています。
検査が患者さんに過大な負担を供するものであれば慎重であるべきですが、そうでない検査なら、患者さんの希望に沿って上げるべきです。患者さんもして欲しいことを遠慮せず、はっきり訴えるべきです。



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