Kensuke Esato,M.D.
江里 健輔
 
江里 健輔
山口大学名誉教授
山口県立大学学長・理事長
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癒やしのそよ風(ほうふ日報)

医師の建前 NEW
2017年08月31日

ほうふ日報(2017,08,24)
           医師の建前
              山口県立大学理事長
                     江里 健輔

「貧血が見られますね。出血している可能性があります。一応、貧血の原因を精査しておくと安心ですね」
「貧血って、どの程度なんですか?ひどいんですか?特に、自覚症状はありませんが・・・」
「軽い貧血です。でも、放置しておくと大変な事が起こりますから」
「大変な事って何ですか?」
「そりゃわかりません。兎に角、大変なことです。可能性としては大腸の病気です。それで、大腸内視鏡検査を受けて下さい」
「大腸内視鏡検査、昨年受けたばかりで異常なかったんですよ」

この会話、77歳の高齢者と医師との会話です。
大変なことが起こると言われて、患者さん、もう、頭が真っ白。
医師には建前があります。医師は患者さんを一端、診察したら所見を見逃し、誤診は許されません。だから、医師は所見に応じて想定出来るあらゆる疾患を考え、その対応を患者さんに示します。その中には聞き流していい情報もあります。
何故、医師は聞き流してもいいような検査などを勧めるのでしょうか?
例えば、上記の場合、軽い貧血ですので、様子をみても差し支えない段階です。しかし、後日、万が一大腸ガンが発見された場合、検査を勧めていないと医師の責任が問われ、「見逃し」として訴訟されかねません。勧めておいて、「患者さんに大腸内視鏡検査を勧めたが、患者さんが拒否された」とカルテに書いておけば、責任を逃(のが)れることが出来るからです。それが医師としての建前です。患者さんへの負担が大きい大腸内視鏡検査は頻回に受ける検査ではありません(2年の1回)。最近は便潜血反応という簡易で精度の高い検査があります。この検査で陽性の場合、ガンの可能性があるので、大腸内視鏡検査を受ける必要が生じます。上記の患者さんに勧める検査はまず体への負担の少ない便鮮血反応です。
このように、医師の進言の凡てを受け入れると、検査、検査で大変です。今ではセカンド・オピニオンという制度がありますので、これを利用すれば、進言された検査が妥当なものかどうかを知ることができます。
医師への信頼関係が希薄になった現在、医師も身構えた医療をします。それだけに、患者さんも医師に丸投げせず、適切な医療を受けるため、最低限の医療知識を持つことがこれからは必要です。



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