Kensuke Esato,M.D.
江里 健輔
 
江里 健輔
山口大学名誉教授
山口県立大学学長・理事長
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風のとき(宇部日報)

「楽観主義バイアス」をいさめる NEW
2018年07月24日

宇部日報(2018,7,24)
      「楽観主義バイアス」をいさめる
         山口県立大学・山口大学名誉教授
                      江里健輔

西日本豪雨で記録的な被害をもたらし、7月13日午後10時現在で死者198人、行方不明59人、避難生活者5809人で、犠牲者の7割は60歳以上と報道されています(読売新聞、2018,7,14付)。
犠牲者の中には逃げ遅れ亡くなった人も多いと思われ、ご冥福を祈るばかりです。
そのような中で、息子さんが避難を勧めたが、「まだ水が来ていないから大丈夫」とか「うちの家が水没することはないよ」と言い張り、避難されなかったとの報道もありました。
人間の心には事を楽観的に思い込む習性があります。特に、高齢者にはこの歳まで何事もなく生きてきたから、いまさら大変なことは起こらないだろうという「楽観主義バイパス」があります。多分、警報が發され、即座に避難されておられたら、このような悲劇は生じなかったのではという思いがあります。これと同じようなことは医療の世界でもみられます。
最近、思春期・若年者世代に進行ガン患者が増えているという報道がありました。患者さんは「私は若いから、ガンには罹らないだろう」と思い、医師も「患者さんは若いからガンではないだろう」と考え、放置されたためです。
国立ガン研究センターの報告によれば、2009~2011年、27府県から集めた地域ガン登録で、1年間にガンと診断された患者数は別表のごとくでした。これらの患者さんには幸せな未来があり、日本を背負って立つ人達ばかりですから、少子化が急激に進む我が国にとってその損失には計り知れないものがあります。年代別に一番多発するガンは15~19歳代では白血病、20~29歳代では精巣卵巣ガン,30~39歳代では乳ガンとなっています。30~39歳の患者さんはいずれも一家の大黒柱で、子どもさんも小さく、一家にとって欠くことのできない方ばかりです。幸せであった家庭が「ガン」と診断された瞬間、無残にも不幸の奈落に落とされると申しても過言ではありません。
「若いから、ガンにかからない」とか「ガンは年配者の病気で、若者の病気でない」とする楽観主義バイアスを持つことなく、「ガン」は若いけれど発生するんだという日常生活を持つべきです。

      27府県から集まった1年間地域ガン登録数
       (2009〜2011)

年齢 発生数(人)
0〜14歳 2100
15〜19歳 900
20歳代 4200
30歳代 16,300
(山口新聞、2018,5,30より引用)





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