Kensuke Esato,M.D.
江里 健輔
 
江里 健輔
山口大学名誉教授
山口県立大学学長・理事長
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その他

残念ですが、山口県は医師少数県です NEW
2019年04月04日

雄飛(2019,3,27)
残念ですが、山口県は医師少数県です
山口大学・県立大学名誉教授
江里 健輔

医師の偏在が叫ばれ始めたのは数十年前からで、今に始まったことではありません。医師が何処で、どのような科を専門に診療するかは個人の裁量権で、第三者に規制されるものではありません。多くの医師は自分の興味ある診療科、住みたいところ、更に、医師という特技が習得出来、それを発揮出来る環境が整っているかなどを勘案して、生涯の勤務地を決めます。当然、時の流れに敏感に反応します。
厚生労働省はこれまで医師偏在を測る目安として「人口10万人当たりの医師数」を用いていました。今回は地域医師数の状況をより厳密に把握するため、住民の年齢や性別から導き出される受診率、医師の年齢などから推定される労働量、患者の流入状況などのデータを基に充足率を算出しました。その結果、山口県は210.3で、33番目で、「医師少数県」にランクされました。都道府県で最も高かったのは東京で、その指数は「329.0」、次いで、京都「314.9」でした。これに反し、最低は岩手県「169.3」でした(山口新聞、2019,2,19)。

何故、山口県は「医師少数県」なのでしょうか?
ご承知のように大学医学部を卒業すると医師の免許が交付されます。しかし、患者さんに信頼される医師になるには、技術を習得するためにそれなりの病院での研修が必要です。昭和40年頃では大学医学部を卒業すると、大半の卒業生は母校で数年間研修した後、大学や大学となんらの繋がりがある病院(関連病院という)、あるいは開業という進路を選択していました。関連病院への出向は医学部内にある医局という組織の長である教授が構成メンバーである医局員の意向を聞き、関連病院の診療実態、地域の医療ニーズ、更には、医局の運営を勘案しながら決めていました。例えば、患者さんの多い病院に出向した時には、次は患者さんの少ない病院へと各人が技術獲得に支障をきたさないよう配慮されていました。この仕組みについて、教授の支配権が絶対的で、教授の独断と偏見で、決定されるという不公平が問題となり、新たに、臨床研修医制度が設けられました。この制度は表向きでは、専門医間の診療ギャップを解消し、全ての疾患に対応できる医師を養成するという命題でしたが、一方では、封建性の強い医局組織の打破という側面もありました。その結果、卒後,医師は医局の因習を忌避し、大学で研修を避けるようになりました。この傾向は山口大学のような地方大学で特に顕著で、あっという間に医局員が少なくなりました。その結果、大学医局から地域医療を担っている病院への派遣が困難となり、地域医療が崩壊あるいは縮小という状態に陥りました。厚生労働省は医師数の地域格差は住民の不利益につながるという理由で、卒業後、地元で一定期間勤務する大学医学部の「地域枠」に限り、定員の臨時増の制度を設けました。地方の各大学医学部は「地域枠」を設け、卒後、地域に残る医師養成に努めましたが、実態は卒後地域で勤務するのを忌避する傾向が著明です。

何故、若い医師は地方勤務を忌避し、人口の多い都市に集中するのでしょうか?
理由は、地方勤務では優れた技術を習得することが難しく、指導的立場になれる「希望」に乏しいからです。

何故、地方勤務では優れた技術を習得することが難しいのでしょうか?
ご承知のように、医療技術は体験で習得され、ます。例えば、手術を受ける場合、患者さんは手術例数の多い病院で手術を受ける事を希望されます。山口県でも、人口の少ない山陰より人口の多い山陽の病院で受けたいということで、山陰の病院での手術件数は年々減ってきています。患者さんの立場からすれば、当然の選択で、それに意見を挟む余地はありません。しかし、この波が強まれば強まるほど、地方病院の勤務を要請するということは
「貴方は風邪やインフルエンザと言うような軽症な疾患だけ診る医師になりなさい」
と要請しているようなものです。

では、この解決は?
若い医師が「希望」を持つことが出来る医療インフラを確保してやることです。即ち、優れた技術を習得出来る仕組みを設けることです。
例えば、一定期間地域で勤務した後には、経済的支援を受けながら、ガンセンターや循環器病センターのような日本のトップ病院などに勤務出来る「技術習得出向制度」を設ければ、地方病院に勤務することを忌避する若手医師は少なくなるでしょう。私の経験で恐縮ですが、某医師にある病院の院長への就職を提示しました。彼はその病院の患者数、手術数が少ない為、私の要請をうけるべきか相当悩んでいました。そんなご主人の姿を見て、奥さんが
「お父さん、なんで悩んでいるの?」
と問いかけましたところ、
「実は教授に『ある病院の院長に就職したらどうじゃ、あの病院の手術数は少ないけれど、病院長ならやりがいのある病院と思うよ。勿論、君の人生に係わることだから、断ってもいいよ』と言われ、どうしたものかと悶々としているんじゃ」
と。奥さんは「
「お父さん、その病院に就職すれば、給料はどうなるの、上がるの?下がるの?」
と問われ、
「そりゃ、給料は今の3倍に上がるよ」
と答えると、奥さんは即座に
「給料が上がるのに、何を悩んでいるの?馬鹿みたい」
と言われたそうです。その言葉で悩みが吹っ切れて、私の要請を受けてくれました。
このように、医師にとって勤務地決定の最大の要因は患者数の多少です。
残念ながら、山口県には他県に抜きん出た魅力ある医療施設を持った病院がありません。知事さんを始め、町・市のトップの方々は、自分が病気になった時、東京や大阪の一流病院で受けるのではなく、山口県内に治療を受けたい病院、即ち、若者が地域医療にやりがいや喜びを覚える医療環境づくりに取り組んで欲しいものです。医療のインフラ作りをせず、『若者に山口県に留まって欲しい』と要請しても、地方に残ろうというモチベーションは高まらず、「医師少数県」からの脱却は困難でしょう。



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