Kensuke Esato,M.D.
江里 健輔
 
江里 健輔
山口大学名誉教授
山口県立大学学長・理事長
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風のとき(宇部日報)

患者さんの専権事項ですが・・・ NEW
2019年05月29日

患者さんの専権事項ですが
山口大学・県立大学名誉教授
               江里 健輔
医師
「お腹の血管にこぶが出来ています。所謂、腹部大動脈瘤です。大きさが7cmですから、1年以内に破裂し、危機状態になる可能性が極めて高いです。今にうちに手術すれば、破裂することもなく、生命を失うこともありません。手術の絶対的な適応です。早急に手術を受けられるべきです」
患者さん
「でも、食欲も旺盛だし、腹も痛くありませんし、日常生活に支障はまったくありません。それなのに何故手術しなければいけないですか?」
医師
「症状が現れた時には瘤が破れ(破裂)、あっという間にショックになります。その時になって手術しても、手術死亡率は50%以上です。この病気は症状がない時こそ、手術すべきなのです。今なら、手術死亡率は1%以下で安全です」
患者さん
「そう言われても、手術する気持ちになれませんね。痛みがないのだから。また、78歳という歳ですから、いつ死んでもかまいません」
医師
「治療を受ける、受けないは貴方がお決めになることですから、私がどうこう言うことはできません。まあ、貴方がそう言われるのは覚悟の上ですから仕方ありませんね。残念ですが」

このような会話が病院でしばしば行われます。
ところが、案の定、2年後に夜中に突然腹痛が生じ、病院に搬送されました。腹部大動脈瘤破裂です。
患者さん
「先生、助けて!!」
と意識朦朧の状態で懇願されました。直ちに、緊急手術をさせて頂き、無事元気に退院されました。
治療を受けるかどうかは患者さんの専権事項ですから、第三者がとやかく言うことではありませんが、医療費の立場で考えると、大きな問題が潜んでいます。即ち、破裂前に手術すれば、手術料は59万800円です。しかし、緊急手術で夜間にすれば、深夜時間外で94万5280円と約35万円の割り増しになりますし、その他、時間外に伴う雑費がかかります。極端な表現ですが、患者さんの負担増もさることながら、国の負担も増し、無駄な医療費です。
読者の皆様はこのような患者さんの判断をどう思われますか



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