Kensuke Esato,M.D.
江里 健輔
 
江里 健輔
山口大学名誉教授
山口県立大学学長・理事長
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癒やしのそよ風(ほうふ日報)

今、貴方が受けている医療は妥当か? NEW
2019年07月26日


今、貴方が受けている医療は妥当か?
山口大学・県立大学名誉教授
江里 健輔

今、貴方が受けておられる治療は妥当でしょうか?と問われると、不安になられることと思います。結論は今の医学・医療の規範では「妥当」です。しかし、30年先、100年先も妥当であるかどうか分かりません。
昭和40 年頃、ガンの手術は病巣を含め、周囲の組織を徹底的に取り除くことでした。特に、所属リンパ節を取り残すことは外科医の恥でした。私もその教えに習って、手術させて貰いました。例えば、乳ガンの手術では、乳房は勿論、乳房の下にある筋肉、更に、脇や鎖骨下・上のリンパ節を脂肪組織と共に徹底的に取り除いていましたから、術後、あばら骨が皮膚から透けて見えていました。患者さんは、冬になると、手術した側の前胸部が寒い、日常生活では手が上がらない、頭髪に櫛を通すことが出来ないなどの苦情を訴えておられていました。私は「いのちを助かっただけいいじゃないですか。我慢して欲しいです」と無責任な言葉を投げかけていました。その後、医療・医学の進歩はめざましく、効果ある抗ガン剤が開発され、従来のような手術は患者さんを苦しめるだけで、効果がないということが分かり、患者さんに過大な負担を掛けないような手術、即ち、乳房温存手術が行われるようになりました。今、思えば患者さんに申し訳ない手術をしたとお詫びしたい気持ですが、昭和40 年代はこのような手術がもっとも妥当な手術だとされていました。

多くの人を救う医学の発展が、人体実験からもたらせられたとしたら、貴方はどう思われますか?最近、「現代産婦人科の父」と呼ばれ、出産で膣(ちつ)に穴が開く「フイスチュラ」の治療法を確立したジェームス・マリオン・シムズは奴隷のアフリカ系(黒人)女性の体を麻酔なしで実験に使っていたことが分かり、セントラルパークにあったブロンズ像が昨年4月撤去されました(朝日新聞、2019,7,3)。マスコミは無麻酔で手術されたと非難していますが、当時の麻酔の安全性を考えるとやむを得なかった面もあるのではないでしょうか?過去になされた医療を現在の医療規範に基づいて責め立てられることは医療人にとっては辛いことです。



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